先日のユニコーンステークスで、ルヴァンスレーヴ産駒が見事な勝利を飾り、同馬にとって待望の種牡馬としての重賞初制覇を果たした。現役時代、3歳にしてチャンピオンズカップを制し、ダート界に君臨したの血は、次世代へと受け継がれていることが証明された瞬間だった。
今回はルヴァンスレーヴ産駒の重賞制覇を祝しつつ、ロベルト系の「現在」と、衰退する世界的潮流、そして世界を驚かせている「和製ロベルト」の逆襲について深く掘り下げてみたい。
世界からは姿を消しつつある「Roberto」
ロベルト系は、1972年の英ダービー馬Roberto(ロベルト)を祖とするヘイルトゥリーズン系の一派である。サンデーサイレンス系が「瞬発力」や「切れ味」を武器とするならば、ロベルト系は「底力」「パワー」「成長力」を最大の武器としてきた。荒れ馬場や、急坂のあるタフなコース、そして有馬記念や宝塚記念のようなグランプリレースで無類の強さを発揮するのがこの血統の真骨頂だと思っている。
かつて、この系統は世界中に力強く枝葉を伸ばしていた。アメリカではKris S.(クリスエス)やDynaformer(ダイナフォーマー)が芝・ダートを問わず活躍馬を出し、豪州や欧州でもRed Ransom(レッドランサム)やLear Fan(リアファン)が確固たる地位を築いていた。
しかし、2020年代も半ばを過ぎた現在、世界的に見てロベルトの直系(父系)は衰退している。欧州や米国では主流血統の波に押され、かつて名馬を送り出したレッドランサム系もリアファン系も、父系としては事実上途絶えているのが現実だ。
世界から「Roberto」の文字がサイアーラインから消えようとしている中、唯一、この血統が「主流」として繁栄を謳歌し、さらには世界へと再輸出している国がある。それが日本である。
日本で躍動する2つの巨大な柱:シンボリクリスエスとグラスワンダー
現在の日本において、ロベルト系を牽引しているのは大きく分けて2つの系統だ。
① シンボリクリスエスから広がる「芝・ダートの二刀流」
一つ目は、Kris S.の最高傑作であり、日本で年度代表馬に2度輝いたシンボリクリスエスの系統である。
この系統の最大の強みは、芝とダートの双方で超大物を輩出している点だ。芝路線では、エピファネイアが種牡馬として大ブレイク。無敗の牝馬三冠馬デアリングタクト、年度代表馬エフフォーリア、そして宝塚記念を制したブローザホーンなど、現代の芝のトップ戦線でサンデーサイレンス系と互角以上に渡り合っている。
そしてダート路線を担うのが、今回産駒がユニコーンステークスを制したルヴァンスレーヴである。彼の産駒がダート重賞で結果を出したことは、エピファネイアの芝での活躍と対を成す、ロベルト系にとって極めて重要なピースが埋まったことを意味している。
② グラスワンダーが紡いだ「奇跡の血脈」と豪州への進撃
二つ目の柱は、Silver Hawk(シルヴァーホーク)の系譜を引くグラスワンダーの系統である。このラインの存続は、まさに「奇跡」と言っていい。
グラスワンダー自身はサンデーサイレンス全盛期の煽りを受け、後継者争いで苦戦を強いられた。その窮地を救ったのが、9番人気の伏兵としてジャパンカップを制したスクリーンヒーローである。しかし、スクリーンヒーローの種牡馬入り当初の評価は極めて低く、初年度の種付け料はわずか30万円。現代の種牡馬ビジネスにおいて、ここから父系を確立することは不可能に近いと思われていた。
ところが、その期待値の低い世代から歴史的な怪物・モーリスが誕生する。日・香港でG1を6勝したモーリスの出現により、この血統は再び息を吹き返した。
さらに、この「和製ロベルト」の生命力は日本国内に留まらなかった。シャトル種牡馬として海を渡ったオーストラリアで、モーリスは現地の血統地図を塗り替えるほどの衝撃を与えたのである。 かつて豪州で栄えたレッドランサム系のロベルトが衰退していく中、日本からやってきたモーリスの産駒、Hitotsu(ヒトツ)が豪州3歳G1を3勝するという歴史的偉業を達成。短距離G1を制したMazu(マズ)などの活躍も相まって、モーリスは一躍トップサイアーの仲間入りを果たした。現在、豪州ではモーリスの息子たちが続々と種牡馬入りしており、日本で独自の進化を遂げたロベルトの血が、再び世界で黄金期を築こうとしている。
因みにではあるがグラスワンダー、スクリーンヒーロー、モーリスという種牡馬の親子3代の産駒が、同日(2021年5月1日)にJRAで勝利を挙げる歴史的快挙を達成している。これはなかなか達成できない偉業である。
途絶えゆく「御三家」の血:ブライアンズタイムの落日
シンボリクリスエス系とグラスワンダー系が世界規模で枝葉を広げる一方で、日本の競馬ファンにとって非常に寂しい現実もある。かつてサンデーサイレンス、トニービンと共に「輸入種牡馬の御三家」と呼ばれたブライアンズタイム系の事実上の断絶である。
三冠馬ナリタブライアン、変幻自在の脚質でファンを魅了したマヤノトップガン、そして名牝ウオッカの父タニノギムレット。記憶に残る幾多の名馬を送り出したブライアンズタイムだったが、後継種牡馬たちが父系を大きく広げることができなかった。
近年まで、地方競馬の総大将フリオーソが孤軍奮闘し、ダート界で優秀な産駒を出し続けて血を繋ぎ止めていた。しかし、そのフリオーソも2024年末をもって種牡馬を引退。これにより、ブライアンズタイムの直系から新たな大物が誕生し、再び巨大なサイアーラインを形成する可能性は「ほぼゼロ」となってしまった。
しかし、血脈が完全に死え絶えたわけではない。「母の父」としてブライアンズタイムが日本のダート界に与えた影響は計り知れず、そのタフな魂は、エスポワールシチーやミューチャリーといった名馬たちの血統表の奥底に、今も確かに息づいている。
ロベルトの血は、日本の土で未来へ向かう
ルヴァンスレーヴ産駒のユニコーンステークス制覇は、日本のダート戦線において、これからもロベルトの血が不可欠であることを改めて証明した。
世界的に見れば、本家のロベルト系は衰退の途上にあるのかもしれない。しかし、タフな馬場、過酷な坂、そして何より「底力」が試される日本の競馬において、この血統は独自の進化を遂げた。そして今や「和製ロベルト」として、かつての故郷である世界へと逆輸出され、各地で新たな伝説を作り始めている。
エピファネイアの息子たちが芝の王道でしのぎを削り、モーリスの血がオーストラリアの草原を駆け抜け、そしてルヴァンスレーヴの産駒たちが日本の砂の頂点を目指す。ブライアンズタイムの直系が静かに幕を下ろそうとも、ロベルト系の物語は終わらない。
ロベルト系主要サイアーライン
- Roberto (1969 us) ※72年英ダービー馬
- Kris S. (1977 us)
- Prized (1986 us)
- Brocco (1991 us)
- *シンボリクリスエス (1999 us→jp)
- サクセスブロッケン (2005 jp)
- エピファネイア (2010 jp)
- デアリングタクト (2017 jp・牝)
- エフフォーリア (2018 jp)
- ブローザホーン (2019 jp)
- ルヴァンスレーヴ (2015 jp)
- Silver Hawk (1979 us)
- Hawkster (1986 us)
- Mutakddim (1991 us)
- *グラスワンダー (1995 us→jp)
- スクリーンヒーロー (2004 jp)
- ゴールドアクター (2011 jp)
- モーリス (2011 jp)
- ピクシーナイト (2018 jp)
- ジャックドール (2018 jp)
- Hitotsu (2018 au) ※豪州種牡馬入り
- Mazu (2018 au) ※豪州種牡馬入り
- アーネストリー (2005 jp)
- スクリーンヒーロー (2004 jp)
- *ブライアンズタイム (1985 us→jp)
- ナリタブライアン (1991 jp)
- マヤノトップガン (1992 jp)
- サニーブライアン (1994 jp)
- シルクジャスティス (1994 jp)
- ファレノプシス (1995 jp・牝)
- タイムパラドックス (1998 jp)
- タニノギムレット (1999 jp)
- ウオッカ (2004 jp・牝)
- フリオーソ (2004 jp) ※2024年種牡馬引退
- Red Ransom (1987 us)
- Intikhab (1994 us)
- Snow Fairy (2007 ie・牝)
- Electrocutionist (2001 us)
- Intikhab (1994 us)
- Lear Fan (1981 us)
- Kris S. (1977 us)

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