英国王室が主催する至高の5日間「ロイヤルアスコット」完全ガイド

いよいよ目前に迫った、英国王室主催の世界的な競馬の祭典「ロイヤルアスコット」。格式高い伝統と世界最高峰のレースが融合するこの特別な5日間について、今回はアスコット競馬場が報道陣向けに発行している公式資料「Royal Ascot Media Guide」を紐解きながら、その見どころをご紹介します。

ロイヤルアスコット(Royal Ascot)とは:伝統と最高峰の競馬が交錯する世界一の祭典

競馬発祥の地・イギリスにおいて、毎年6月中旬に開催される「ロイヤルアスコット(Royal Ascot)」は、単なる競馬の枠を超え、英国の社交界における最高峰のイベントとして君臨しています。

その歴史は1711年、アン女王がウィンザー城の近くを馬で散策している際、オープン・ヒース(未開の地)を目にし、「馬が全速力で走るのにこれほど理想的な場所はない」と見出したことから始まりました。同年8月11日に最初のレースが開催されて以来、300年以上の時を超えてその伝統は脈々と受け継がれています。

英国王室との深い絆とドレスコード

ロイヤルアスコットの最大の特徴は、文字通り「王室主催」の開催である点です。毎日レースが始まる前には、ウィンザー城から国王夫妻やロイヤルファミリーが馬車に乗って本馬場をパレードする「ロイヤル・プロセッション(Royal Procession)」が行われ、場内のボルテージは最高潮に達します。この伝統は1825年、国王ジョージ4世の時代に始まったものです。

また、世界一厳格とも言われるドレスコードが設定されていることでも有名です。特に最上級のエリアである「ロイヤル・エン enclosure(王室特等席)」では、男性は黒またはグレーのモーニングコートにトップハット(シルクハット)、女性は露出を抑えたドレスに規定サイズ以上の帽子(ハット)の着用が義務付けられています。毎年、その年のテーマカラー(2026年は「ブライトトマト」)が発表されるなど、ファッションメディアの注目度も世界一です。

5日間で繰り広げられる、最高峰のレース構成

ロイヤルアスコットは、火曜日から土曜日までの5日間にわたって開催されます。2002年のエリザベス女王2世ゴールデン・ジュビリー(即位50周年)を記念して従来の4日間から5日間に拡大されました。

この5日間で行われるレースの格付けと数は、世界中のどの競馬イベントよりも豪華です。

  • 総レース数:全35レース(1日7レース × 5日間)
  • G1レース計8個
  • 重賞(G1/G2/G3)総数計22個(G1: 8個、G2: 8個、G3: 6個)
  • その他:リステッド競走(L)や、伝統的なヘリテージハンデキャップなど、出走するだけで名誉とされる格式高いレースが並びます。

2026年度の賞金総額は過去最高となる1,940万ポンド(約38億円)にのぼり、すべての平地競走で最低2万5,000ポンドの賞金が保証されるなど、世界中から超一流の競走馬、調教師、騎手が集結する環境が整えられています。

曜日別レースプログラム&全8大G1レース紹介

ロイヤルアスコットは、曜日ごとに明確なキャラクターが与えられています。ここでは火曜日から土曜日までの全プログラムの流れと、その中核をなす8つのG1レースについて、歴史的背景や過去の名馬を交えて詳しく解説します。

火曜日(Tuesday):世界最高峰のスピードとマイル戦で幕を開ける至高の初日

初日は、マイル路線のトップ決定戦と、世界中から俊脚が集まる電撃のスプリント戦という、非常に華やかかつハイレベルなG1レースが3つも組まれています。

【第1レース:G1】クイーンアンステークス(The Queen Anne Stakes)

  • コース条件:4歳以上、直線1マイル(約1609m)
  • レース概要:1840年に創設され、アスコット競馬の創始者であるアン女王を記念した、5日間のオープニングを飾る名物G1です。2003年にG1に昇格し、現在はアメリカのブリーダーズカップ・マイルの優先出走権(Win and You’re In)の対象レースにもなっています。
  • 歴史的名馬とエピソード:過去の優勝馬には、名種牡馬となったケープクロス(1999年)や、G1を14勝したフランスの名牝ゴルディコヴァ(2010年)、そして14戦無敗の最強馬フランケル(2012年)がいます。フランケルがこのレースで見せた11馬身差の圧勝劇は、今もアスコット史上最高のパフォーマンスとして語り継がれています。また、1974年には上位3着までに入線した馬がすべて進路妨害で失格となり、4着だったイタリア調教馬のブルックが繰り上がり優勝するという前代未聞の事件も起きています。

【第3レース:G1】キングチャールズ3世ステークス(The King Charles III Stakes)

  • コース条件:3歳以上、直線5ハロン(約1006m)
  • レース概要:1860年の大雨により、本来予定されていた2マイルのレースが開催不能となり、コース内で唯一水はけが良く走行可能だった「4ハロン」の直線で代替レースを行ったことが起源というユニークな歴史を持ちます。元々は「キングズスタンドステークス」の名称で親しまれていましたが、2023年にキング・チャールズ3世の75歳の誕生日を記念して現在の名称に改称されました。欧州だけでなく、短距離王国のオーストラリアやアメリカ、香港からの参戦も多い国際色豊かなスピード決戦です。
  • 歴史的名馬とエピソード:20世紀最高のスプリンターと称されるアバナント(1949年)や、オーストラリアから遠征してイギリス競馬界を驚かせたショワジール(2003年)、ブルーポイント(2019年)などが有名です。

【第4レース:G1】セントジェームズパレスステークス(The St James’s Palace Stakes)

  • コース条件:3歳牡馬限定、ラウンドコース1マイル(約1609m)
  • レース概要:1834年に創設された、3歳牡馬マイラーの頂点を決める一戦です。イギリス、アイルランド、フランスの「2000ギニー」を戦ってきたクラシック戦線の主役たちが再び激突する舞台であり、ここを勝つことは将来の種牡馬としての価値を決定づける重みを持ちます。
  • 歴史的名馬とエピソード:戦後の名馬ブリガディアジェラード(1971年)や、ここでも無敗の強さを見せたフランケル(2011年)が勝利しています。近年ではアイルランドの天才エイダン・オブライエン調教師が通算9勝を挙げており、圧倒的な相性の良さを誇ります。

【火曜日のその他主要レース】

  • 【G2】コヴェントリーステークス(2歳・6ハロン)
  • 【ハデハン】アスコットステークス(4歳以上・2マイル4ハロン)
  • 【L】ウォルファートンステークス(4歳以上・1マイル2ハロン)
  • 【ハデハン】カッパーホースステークス(4歳以上・1マイル6ハロン)

水曜日(Wednesday):国際色豊かな中距離王決定戦

2日目は、欧州の中距離(10ハロン)路線のトップホースが一堂に会する重要なG1がメインを張ります。

【第4レース:G1】プリンスオブウェールズステークス(The Prince Of Wales’s Stakes)

  • コース条件:4歳以上、ラウンドコース1マイル2ハロン(約2012m)
  • レース概要:1862年、ヴィクトリア女王の夫・アルバート公の没後に創設されました。当時は3歳馬限定でしたが、幾度かの休止や距離変更を経て、2000年に4歳以上の古馬G1として再確立されました。現在のロイヤルアスコットにおいて、世界各国の有力中距離馬が集まる最もエキサイティングな国際競走の一つであり、ブリーダーズカップ・ターフへの優先出走権も付与されます。
  • 歴史的名馬とエピソード:連覇を達成したムトト(1987・1988年)、ドバイワールドカップを圧勝した砂芝二刀流の名馬ドバイミレニアム(2000年)、世界3大陸でG1を制した名牝ウイジャボード(2006年)など、勝ち馬のリストには競馬史に名を残す名馬がズラリと並びます。近年でも、日本の凱旋門賞馬などのライバルとなる欧州中距離界のボスがここから誕生しています。

【水曜日のその他主要レース】

  • 【G2】クイーンメアリーステークス(2歳牝馬・5ハロン)
  • 【G2】クイーンズヴァーズ(3歳・1マイル6ハロン)
  • 【G2】デュークオブケンブリッジステークス(4歳以上牝馬・1マイル)
  • 【ヘリテージハデハン】ロイヤルハントカップ(3歳以上・直線1マイル)
  • 【ハデハン】ケンジントンパレスステークス(4歳以上牝馬・オールドマイル)
  • 【L】ウィンザーキャッスルステークス(2歳・5ハロン)

木曜日(Thursday):伝統の「レディースデー」と最古の長距離G1

3日目は「レディースデー」と呼ばれ、きらびやかな衣装をまとった女性客で華やかに彩られますが、レース内容はアスコットで最もタフな長距離スタミナ戦がミリタリー的な熱気をもたらします。

【第4レース:G1】ゴールドカップ(The Gold Cup)

  • コース条件:4歳以上、ラウンドコース2マイル4ハロン(約4023m)
  • レース概要:1807年創設。ロイヤルアスコットの全35レースの中で最も歴史が古く、最も名誉ある究極の長距離(ステイヤーズ)G1です。イギリス競馬界において「ゴールドカップに勝つこと」は特別な意味を持ちます。約4000mという過酷な距離を走り抜く無限のスタミナと、最後に突き放すスピードの双方が要求されます。
  • 歴史的名馬とエピソード:1970年代に3連覇を達成したサガロ、そして史上唯一の4連覇(2006〜2009年)を達成し、現在はアスコット競馬場のパレードリング(下見所)に等身大の銅像が建てられている伝説のステイヤー・イェーツが有名です。また、2013年にはエリザベス女王2世の所有馬エスティメイト(Estimate)が優勝。在位中の英国君主がゴールドカップを制したのは300年以上の歴史の中で初めての快挙であり、女王自身が満面の笑みで喜ぶ姿は世界中で大々的に報じられました。近年では、日本でもおなじみの名馬ストラディバリウスが3連覇(2018〜2020年)を果たしています。

【木曜日のその他主要レース】

  • 【L】チェシャムステークス(2歳・7ハロン)
  • 【ハデハン】キングジョージV世ステークス(3歳・1マイル4ハロン)
  • 【G2】リブルスデールステークス(3歳牝馬・1マイル4ハロン)
  • 【ヘリテージハデハン】ブリタニアステークス(3歳牡騸・直線1マイル)
  • 【G3】ハンプトンコートステークス(3歳・1マイル2ハロン)
  • 【ハデハン】バッキンガムパレスステークス(3歳以上・7ハロン)

金曜日(Friday):3歳若駒のトップマイラー&スプリンター激突

4日目は、3歳世代のスピードスターたちがマイルとスプリントそれぞれの頂点を競い合う、2つの大きなG1が目玉となります。

【第2レース:G1】コモンウェルスカップ(The Commonwealth Cup)

  • コース条件:3歳牡牝限定、直線6ハロン(約1207m)
  • レース概要:2015年に新設された、欧州の競馬史の中でも比較的新しいG1です。それまで3歳馬専用の短距離G1が欧州になかったことから、若きスプリンターに最高の舞台を提供するために創設されました。ヨーロッパの格付け制度において、通常であれば下位グレードからの実績を積んで昇格するところ、新設初年度からいきなり最高格の「G1」としてスタートした極めて異例のレースです。
  • 歴史的名馬とエピソード:初代王者のムハアラー(2015年)は、ここをステップに同年の欧州最優秀スプリンターへと上り詰めました。他にもカラヴァッジオ(2017年)など、後の短距離界を引っ張るスターを多数輩出しています。

【第4レース:G1】コロネーションステークス(The Coronation Stakes)

  • コース条件:3歳牝馬限定、ラウンドコース1マイル(約1609m)
  • レース概要:1838年に行われたヴィクトリア女王の戴冠式(コロネーション)を記念して、1840年に創設された伝統の一戦です。火曜日の「セントジェームズパレスS」の牝馬版にあたり、イギリス・アイルランド・フランスの「1000ギニー」を賑わせた、欧州中のトップ3歳牝馬マイラーたちが世代女王の座をかけて激突します。
  • 歴史的名馬とエピソード:24戦22勝の歴史的名牝プリティポリー(1904年)や、1955年に牝馬三冠を達成したメルドなどが勝利しています。2018年には、アルファセントーリが1分35秒89という、それまでの記録を大きく塗り替える驚異的なトラックレコードで6馬身差の大圧勝を飾り、世界を驚かせました。

【金曜日のその他主要レース】

  • 【G3】アルバニーステークス(2歳牝馬・6ハロン)
  • 【ハデハン】デュークオブエディンバラステークス(3歳以上・1マイル4ハロン)
  • 【ハデハン】サンドリンガムステークス(3歳牝馬・直線1マイル)
  • 【G2】キングエドワードVII世ステークス(3歳牡騸・1マイル4ハロン)
  • 【ハデハン】パレスオブホリールードハウスステークス(3歳・5ハロン)

土曜日(Saturday):興奮のフィナーレと、2026年からの新たな試み

最終日となる5日目は、世界的な知名度を誇る国際スプリントG1をメインに据え、熱狂の中で幕を閉じます。また、2026年からはプログラムに一部変更が加えられています。

【第4レース:G1】クイーンエリザベス2世ジュビリーステークス(The Queen Elizabeth II Jubilee Stakes)

  • コース条件:4歳以上、直線6ハロン(約1207m)
  • レース概要:ロイヤルアスコットで最高額の賞金が設定されている、世界最高峰の短距離決戦です。1868年に「コーク&オレリーステークス」として創設され、2002年のエリザベス女王ゴールデン・ジュビリーを機にG1に昇格。その後、即位の節目に合わせて名称が「ダイアモンド」「プラチナ」と変わり、2022年の女王崩御の翌年(2023年)から現在の名称に定着しました。世界中のトップスプリンターが、欧州短距離界の頂点を目指して超高速のスピード勝負を繰り広げます。
  • 歴史的名馬とエピソード:2002年の勝ち馬ショワジールや、2019年のブルーポイントは、同週の火曜日に行われる「キングチャールズ3世S(旧キングズスタンドS)」とこのレースを中3日で両方制するという、伝説的なスプリント2冠(ダブル)を達成しました。また、2012年にはオーストラリアの歴史的無敗の名牝ブラックキャビアが参戦。ゴール前で騎手が追うのを緩める大接戦となりながらも22連勝目を死守し、アスコットを揺るがしました。2024年には、8歳馬ケイデムがこのレース2度目の制覇を果たすという、最高齢優勝記録も生まれています。

【2026年の注目変更点:ノーフォークステークス(G2)の移動】 これまで伝統的に木曜日(3日目)に行われていた、2歳快速馬による重要重賞「ノーフォークステークス(G2・5ハロン)」が、2026年より土曜日の最終日へと移動になりました。これにより、最終日のプログラムの厚みがさらに増し、週末に訪れる大観衆をより興奮させる構成となっています。

【土曜日のその他主要レース】

  • 【G2】ハードウィックステークス(4歳以上・1マイル4ハロン)
  • 【G3】ジャージーステークス(3歳・7ハロン)
  • 【ヘリテージハデハン】ウォーキンガムステークス(3歳以上・6ハロン)
  • 【ハデハン】ゴールデンゲートステークス(3歳・1マイル2ハロン)
  • 【Conditions】クイーンアレクサンドラステークス(4歳以上・2マイル5.5ハロン)
    • ※この最後のレースは、アスコット開催における最長距離(約4300m)の名物レースです。

まとめ:歴史と革新が同居するロイヤルアスコット

アン女王のひとことから始まったアスコット競馬場は、数々の改修(2006年の新グランドスタンド誕生など)や時代の変化、そしてエリザベス女王からチャールズ3世国王への王位継承を経てもなお、その格式と美しさを失っていません。

毎日レース終了後に、場内の「バンドスタンド(音楽堂)」の周りに何千人もの観客が集まり、イギリスの伝統歌を大合唱する「シンギング・アラウンド・ザ・バンドスタンド」という1970年代からの心温まる伝統も健在です。

最高峰の競走馬たちが繰り広げる全35レースのドラマと、英国王室の華やかな伝統が美しく融合するロイヤルアスコット。その曜日ごとのストーリーを知ることで、この世界最高の競馬の祭典は、より一層深く、エキサイティングに映るのです。

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