日本調教馬のテーオーエルビスが、見事に米国のダートG1を制覇するという歴史的な快挙を成し遂げました。彼の圧倒的なスピードを支える父系を遡ると、あるひとつの巨大な血脈に行き着きます。
サドラーズウェルズ(Sadler’s Wells)という名前を聞けば、世界中の競馬ファンは「欧州の重厚な芝」「無尽蔵のスタミナ」を連想します。しかし、血のロマンとは奇なるもので、その直系から今回のテーオーエルビスのように「北米ダートのスピードとパワー」を体現する巨大なラインが築き上げられました。その立役者こそが、Medaglia d’Oro(メダグリアドーロ)です。
1999年にアメリカで生まれた彼は、父El Prado(エルプラド)から受け継いだサドラーズウェルズの血を、北米の砂の上で見事に開花させました。トラヴァーズSなどを制し、種牡馬入りしてからはアメリカのトップサイアーとして長年君臨。2024年に種牡馬を引退するまで、多種多様な大物産駒を世に送り出してきました。Medaglia d’Oro系のラインについてまとめてみました。
Medaglia d’Oro系 サイアーライン
Medaglia d’Oro (1999 🇺🇸)
├─ Warrior’s Reward (2006 🇺🇸) ※初期の米G1馬
├─ Passion for Gold (2007 🇺🇸) ※仏G1馬・南米等の各国を渡り歩く
├─ Mshawish (2010 🇺🇸) ※芝・ダート両G1制覇の二刀流
├─ Violence (2010 🇺🇸) ※現系統の筆頭格
│ ├─ Volatile (2016 🇺🇸)
│ │ └─ テーオーエルビス (2022 🇯🇵)
│ ├─ Dr. Schivel (2018 🇺🇸)
│ └─ Forte (2020 🇺🇸) ※米2歳王者・フロリダダービー等G1・4勝
├─ Fast Anna (2011 🇺🇸) ※早逝が惜しまれる米スプリント血統
├─ Kermadec (2011 🇳🇿) ※豪州の芝マイルG1・2勝の名馬
├─ Vancouver (2012 🇦🇺) ※豪2歳王者
├─ Astern (2013 🇦🇺) ※豪州の芝路線で活躍
│ └─ Golden Mile (2019 🇦🇺)
├─ Talismanic (2013 🇬🇧➔🇯🇵) ※BCターフ勝馬・日本輸入
├─ Bolt d’Oro (2015 🇺🇸) ※北米新種牡馬リーディング上位
│ └─ Instant Coffee (2020 🇺🇸)
├─ Higher Power (2015 🇺🇸) ※パシフィッククラシック大差圧勝
└─ Enticed (2015 🇺🇸) ※ケンタッキージョッキークラブS勝馬
北米ダートを席巻する本流たち
メダグリアドーロの父系において、現在最も強大な勢力を誇っているのがViolence(ヴァイオレンス)のラインです。 ヴァイオレンス自身は怪我により3歳春で引退を余儀なくされましたが、種牡馬として大成功を収めました。その代表産駒の1頭が、北米のスプリントG1を圧倒的なスピードで制したVolatile(ヴォラタイル)です。日本に輸入されたテーオーエルビスはまさにこのヴォラタイルの産駒であり、メダグリアドーロ系の「極限のスピード」を日本の砂の上で証明する存在として期待されています。
さらに、ヴァイオレンスの最高傑作とも言えるのがForte(フォルテ)です。2022年の米2歳王者にしてフロリダダービーなどG1を4勝した彼は、現在北米で最も期待されている若手種牡馬の1頭です。
また、Bolt d’Oro(ボルトドーロ)も北米における重要な後継者です。初年度からInstant Coffee(インスタントコーヒー)やTamara(タマラ)などの活躍馬を出し、若手種牡馬リーディングの上位常連となりました。仕上がりの早さと確かな底力を武器に、生産者から絶大な人気を集めています。
世界へ広がる枝葉と適応力(オセアニアと日本)
メダグリアドーロの血の真の恐ろしさは、アメリカのダートにとどまらず、シャトル種牡馬として渡ったオセアニアの「芝のスピード戦線」でも完全に適応し、大成功を収めた点にあります。サドラーズウェルズ由来の芝適性が、南半球特有のタフな馬場で色濃く発現したのです。
オーストラリア・ニュージーランドでの躍動
- Vancouver(バンクーバー):豪州競馬において最も権威のある2歳G1・ゴールデンスリッパーステークスを無敗で制覇。父の血に究極の早熟性とスピードをもたらしました。
- Astern(アスターン):豪州の3歳マイルG1・ゴールデンローズSの勝ち馬。種牡馬としても豪州マイル戦線の最高峰であるコーフィールドギニー(G1)を制したGolden Mile(ゴールデンマイル)を輩出し、サイアーラインをさらに先へと繋いでいます。
- Kermadec(カーマデック):ドンカスターマイルなど豪州の古馬芝G1を2勝。種牡馬としては、G1を4勝した名牝Montefilia(モンテフィリア)や、VRCオークス(豪州の牝馬クラシック)を勝ったWillowy(ウィロウィー)を輩出。スピードだけでなく、中長距離をこなすスタミナも遺伝させることに成功しました。
日本においては、2017年のBCターフ覇者Talismanic(タリスマニック)がダーレー・ジャパンで供用されています。現時点(2026年)で、JRAの重賞や全国交流のダートグレード競走を制するような「大物」はまだ誕生していませんが、地方競馬ではv本においては、2017年のBCターフ覇者Talismanic(タリスマニック)がダーレー・ジャパンで供用されています。現時点(2026年)で、JRAの重賞や全国交流のダートグレード競走を制するような「大物」はまだ誕生していませんが、地方競馬ではv(留守杯日高賞)や、2歳重賞を4勝したセイクリスティーナのように、堅実に勝ち星を挙げる産駒が出ています。中央の芝で勝ち上がる馬も多く、この系統特有の「芝・ダートを問わない高い適応力」を日本の馬場でも示しています。
サイアーラインに載らない「歴史的名馬」たち
メダグリアドーロという種牡馬の真の偉大さを語る上で、「サイアーライン(父系)に決して名前が載らない3頭の名馬」の存在を抜きにすることは不可能です。
歴史を覆した怪物牝馬:Rachel Alexandra(レイチェルアレクサンドラ) メダグリアドーロの評価を決定づけたのは、この歴史的名牝の存在です。2009年、彼女は牝馬ながら米三冠レースのプリークネスSに出走して牡馬を一蹴。さらにハスケル招待SやウッドワードSでも並み居る牡馬のG1馬たちを粉砕し、歴史的な年度代表馬に輝きました。圧倒的な前進気勢とスピードは、メダグリアドーロの「ダート適性」を世界に知らしめました。
ほぼ完璧な戦績を残した砂の女王:Songbird(ソングバード) レイチェルアレクサンドラに続き、再び現れた規格外の牝馬がソングバードです。デビューから無傷の11連勝でBCジュヴェナイルフィリーズやアラバマSなどG1を総なめ。生涯成績15戦13勝(2着2回)という完璧に近い戦績を残し、メダグリアドーロの種付料を当時の全米トップクラスへと押し上げた最大の功労者です。
香港競馬史上最高の英雄:Golden Sixty(ゴールデンシックスティ) 香港で芝のマイル路線を完全に制圧した歴史的名馬です。香港マイル(G1)を3勝し、香港競馬における歴代最多勝利記録と歴代最高獲得賞金記録を樹立しました。しかし、彼は「セン馬(去勢馬)」であるため、これほどの歴史的偉業を成し遂げながらも子孫を残すことができず、サイアーラインには名前が残りません。北米ダートだけでなく、アジアの高速芝マイルでも最強馬を出せるという、父の規格外のポテンシャルを証明した至宝です。
母の父(ブルードメアサイアー)としての影響力
メダグリアドーロの血は「母の父」としても成功を収めており、日米を問わず芝・ダートの第一線で活躍するトップホースを次々と送り出しています。
ファントムシーフ 父ハービンジャー、母の父Medaglia d’Oro。共同通信杯(G3)優勝や皐月賞(G1)3着など、日本では最も目立つ母父Medaglia d’Oroの馬だと思います。のクラシック戦線で活躍した芝の中距離ホースです。
ハヤブサマカオー 父シニスターミニスター、母の父Medaglia d’Oro。メダグリアドーロ特有の早熟性とスピードを受け継ぎ、兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)を制覇しました。
ナショナルトレジャー(National Treasure) 父Quality Road、母の父Medaglia d’Oro。2023年のプリークネスS、2024年のペガサスワールドカップを制し、アメリカダート界のトップを走っています。
オリンピアド(Olympiad) 父Speightstown、母の父Medaglia d’Oro。ジョッキークラブゴールドカップを圧勝した、米国のトップサイアー候補です。
それにしても、「テーオーエルビス」というネーミングの妙には唸らされます。キング・オブ・ロックンロール、エルヴィス・プレスリーを想起させるその名前は、本場アメリカのG1という華やかな大舞台にこれ以上ないほどぴったりです。
そこに「エルビス」の名が輝く事実は、新たな伝説の幕開けを感じさせてくれます。彼が今後、この偉大なメダグリアドーロのサイアーラインにどのような歴史を書き加えていくのか、期待は膨らむばかりです。

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